お侍様 小劇場

     “端境の宵” (お侍 番外編 108)
 


気がつくと、何処からだろうか
ささやかながら虫の奏でが聞こえて来ており。
その合間合間にひたりぱたりという水音もするから、
ああ、雨が上がったのかと、ぼんやり思う。
薄く開けた窓から、涼しい夜気が多少は入るようで。
この夏も途轍もない酷暑だったの、
少しは“過去”扱い出来そうなほど、
秋めいた趣きを仄かに感じた七郎次であり。

 “……えっと。”

目が覚めたということは、寸前までは眠ってたということで。
ベッドの程よいクッションも、シーツの肌合いも、
慣れ親しんだいつもの感覚のそれ。
体のあちこちに触れている、
誰かさんの腕の感触や手の重みも、
肌同士が重なってるところのじんわりとした熱も、
やはりやはり いつものそれに違いはなかったが、

 『   、………ゃ、あ………いや。』

空耳か幻聴か、
それは唐突に生々しい声音が脳裏へとよみがえり、
誰の声かと思い出すと同時、
体の芯から肌目へまで、さあっと一気に沸き上がった熱があって、

 “あ……。////////”

顔や首条が熱くなり、
ぼんやりと、薄く開いてた双眸が、
急に落ち着きをなくしてしまった彼の内心を如実に表してのこと、
淡色の睫毛の陰にて、青玻璃の瞳を忙しく揺らめかせてしまったのは、

 “はしたないったら……。////////”

勘兵衛に掻い込まれての睦みの最中、
悦に追い上げられた末、ついつい蜜声を上げてしまうのが、
だが、七郎次には途轍もない痴態にも等しいことならしく。
意味をなさない声が漏れるのは、まま仕方がないとしても、

  いや、と

拒絶するよな言を、甘くて細い声にて放ってしまうのが、
どんな痴態よりも恥ずかしくてしょうがない。
甘えるような、いかにも子供じみた、頑是ない言いようであり。
他のお人が口にするのへは何とも思わぬが、
女性や、可愛らしい子のすること、
だからこそ微笑ましく見えるのだとも思うので。
それもあってのこと、
心からお慕いしている勘兵衛の、
雄々しい腕に迎えられ、
頼もしい懐ろへと掻い込まれるのが至福であるにも関わらず、

  そんな声を出さぬよう、我を忘れないようにと
  気持ちのどこかに枷がはたらく。

強い肌にくるまれて、いい響きのお声で名を呼ばれ。
深色の眼差しにお顔を覗き込まれ。
そのまま細められるまぶたに誘われて、
こちらも眸を伏せれば、唇を喰まれる。
熱を帯び始めた吐息が御主の嵩ぶりを伝えて来、
ベッドの上へと倒れ込んだそのまま、
こぼれ落ちてくる髪を
愛しい愛しいと掻き上げたその手を捕まえられて。
指先から甲へまで、丁寧に唇で撫でられて。
加減されていても充実感のある肢体が、
こちらへ重なっているというだけで、
ああどうしようか、体の芯が熱くなってしょうがない。
愛しい愛しいと指から額からと遠いところを撫でられて。
まだそんな端々しか触れてもらってはないというに、
肌はあっと言う間に過敏になり。
着ているもの、剥かれ解かれる端から、
夜気に晒される間もなく熱い手が這うのへと、

  さしたる慰撫でもないというに、
  もうもう声が上ずるなんて、と

何てはしたないことかと、
そんな羞恥心が勝手に胸底で膨らんでしまってのこと。
息を詰めての奥歯を噛みしめ、
こらえてしまう癖がいつしか染みついており。

 『……しち?』
 『〜〜〜。//////』

ああ、ああ、なりませぬ。//////
そのお声で、しかも優しく呼ばわれるのは狡うございます。
少し掠れるほどに低めての、
如何したかと返事を待つようなお声を、
わざとに掛けて来られるのは、ほんにお狡い。//////

 『あ……。//////』

見上げれば間近に精悍なお顔。
今でこそ、目許も伏せられての、
穏やかに寝息を刻んでおいでだが。
視線を逸らそうとするその様ごと、
いっそ口吸いで引き留めようとなさりもし。
そんな稚気までそそいで下さる慈しみは、
何より嬉しいことだけれど……。

 「………シチ?」

こそりとじわりと、少しずつ身をずらし、
ベッドから抜け出そうと試みたものの。
そんなささやかな企てなぞお見通しであられたか、
こちらの寸刻みの動作を、一気にごそりと身を起こし、
あっと言う間に詰めて来られては敵いはしない。
背へと回された腕が、軽々と引き戻したのみならず、
勘兵衛の側からも心持ち寄って来たものだから。
隣り合って身を寄せあってた程度だった位置取りが、
気がつけば、懐ろの中へと掻い込まれ直してしまっており。

 「か、勘兵衛様。」
 「んん?」
 「汗を流して来たいのですが。」
 「さようか。」
 「あ、いえ、じじじ自分で行ってまいります。」
 「つれないのだな。」
 「ふえぇ?」
 「 (くす) どこから声を出しておるか。」
 「あの、明日もお早いのでしょうから…。」
 「有給を取った。」
 「有給…。」
 「夏休みも取れなんだのだ、こういう時に使わんでどうする。」

   「こういう時?」


妻を可愛がり過ぎた翌朝とか…なんて、
うじゃじゃけたことを言うよなお人だとは思いませんが。
真っ赤になった奥方に枕をぶつけられたり、
その気配を的確に読んだ次男坊に救出させたり、
これ以上綴るとそっちへ転びそうなので、
今日のところはこの辺でvv





   〜Fine〜  11.09.05.


  *途中で集中が切れたのか、
   何か妙な〆めですいません。
   こないだからこんなんばかりですね。(猛省)
   やっと雨が落ち着いた途端に、窓の外からは虫の声がして。
   蝉は雨の六月の後、なかなか鳴き声しなかったけど、
   コオロギや鈴虫は地中にいた訳じゃないからか、
   暦の上での秋が来れば、
   暑かろうが雨だろうが鳴くんだねと思いましたの。

   でもでも、島田さんチの恋女房は、
   相変わらずにお声を出せない、
   慎ましいお人なのでしたvv
(おいおい)

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