気がつくと、何処からだろうか
ささやかながら虫の奏でが聞こえて来ており。
その合間合間にひたりぱたりという水音もするから、
ああ、雨が上がったのかと、ぼんやり思う。
薄く開けた窓から、涼しい夜気が多少は入るようで。
この夏も途轍もない酷暑だったの、
少しは“過去”扱い出来そうなほど、
秋めいた趣きを仄かに感じた七郎次であり。
“……えっと。”
目が覚めたということは、寸前までは眠ってたということで。
ベッドの程よいクッションも、シーツの肌合いも、
慣れ親しんだいつもの感覚のそれ。
体のあちこちに触れている、
誰かさんの腕の感触や手の重みも、
肌同士が重なってるところのじんわりとした熱も、
やはりやはり いつものそれに違いはなかったが、
『 、………ゃ、あ………いや。』
空耳か幻聴か、
それは唐突に生々しい声音が脳裏へとよみがえり、
誰の声かと思い出すと同時、
体の芯から肌目へまで、さあっと一気に沸き上がった熱があって、
“あ……。////////”
顔や首条が熱くなり、
ぼんやりと、薄く開いてた双眸が、
急に落ち着きをなくしてしまった彼の内心を如実に表してのこと、
淡色の睫毛の陰にて、青玻璃の瞳を忙しく揺らめかせてしまったのは、
“はしたないったら……。////////”
勘兵衛に掻い込まれての睦みの最中、
悦に追い上げられた末、ついつい蜜声を上げてしまうのが、
だが、七郎次には途轍もない痴態にも等しいことならしく。
意味をなさない声が漏れるのは、まま仕方がないとしても、
いや、と
拒絶するよな言を、甘くて細い声にて放ってしまうのが、
どんな痴態よりも恥ずかしくてしょうがない。
甘えるような、いかにも子供じみた、頑是ない言いようであり。
他のお人が口にするのへは何とも思わぬが、
女性や、可愛らしい子のすること、
だからこそ微笑ましく見えるのだとも思うので。
それもあってのこと、
心からお慕いしている勘兵衛の、
雄々しい腕に迎えられ、
頼もしい懐ろへと掻い込まれるのが至福であるにも関わらず、
そんな声を出さぬよう、我を忘れないようにと
気持ちのどこかに枷がはたらく。
強い肌にくるまれて、いい響きのお声で名を呼ばれ。
深色の眼差しにお顔を覗き込まれ。
そのまま細められるまぶたに誘われて、
こちらも眸を伏せれば、唇を喰まれる。
熱を帯び始めた吐息が御主の嵩ぶりを伝えて来、
ベッドの上へと倒れ込んだそのまま、
こぼれ落ちてくる髪を
愛しい愛しいと掻き上げたその手を捕まえられて。
指先から甲へまで、丁寧に唇で撫でられて。
加減されていても充実感のある肢体が、
こちらへ重なっているというだけで、
ああどうしようか、体の芯が熱くなってしょうがない。
愛しい愛しいと指から額からと遠いところを撫でられて。
まだそんな端々しか触れてもらってはないというに、
肌はあっと言う間に過敏になり。
着ているもの、剥かれ解かれる端から、
夜気に晒される間もなく熱い手が這うのへと、
さしたる慰撫でもないというに、
もうもう声が上ずるなんて、と
何てはしたないことかと、
そんな羞恥心が勝手に胸底で膨らんでしまってのこと。
息を詰めての奥歯を噛みしめ、
こらえてしまう癖がいつしか染みついており。
『……しち?』
『〜〜〜。//////』
ああ、ああ、なりませぬ。//////
そのお声で、しかも優しく呼ばわれるのは狡うございます。
少し掠れるほどに低めての、
如何したかと返事を待つようなお声を、
わざとに掛けて来られるのは、ほんにお狡い。//////
『あ……。//////』
見上げれば間近に精悍なお顔。
今でこそ、目許も伏せられての、
穏やかに寝息を刻んでおいでだが。
視線を逸らそうとするその様ごと、
いっそ口吸いで引き留めようとなさりもし。
そんな稚気までそそいで下さる慈しみは、
何より嬉しいことだけれど……。
「………シチ?」
こそりとじわりと、少しずつ身をずらし、
ベッドから抜け出そうと試みたものの。
そんなささやかな企てなぞお見通しであられたか、
こちらの寸刻みの動作を、一気にごそりと身を起こし、
あっと言う間に詰めて来られては敵いはしない。
背へと回された腕が、軽々と引き戻したのみならず、
勘兵衛の側からも心持ち寄って来たものだから。
隣り合って身を寄せあってた程度だった位置取りが、
気がつけば、懐ろの中へと掻い込まれ直してしまっており。
「か、勘兵衛様。」
「んん?」
「汗を流して来たいのですが。」
「さようか。」
「あ、いえ、じじじ自分で行ってまいります。」
「つれないのだな。」
「ふえぇ?」
「 (くす) どこから声を出しておるか。」
「あの、明日もお早いのでしょうから…。」
「有給を取った。」
「有給…。」
「夏休みも取れなんだのだ、こういう時に使わんでどうする。」
「こういう時?」
妻を可愛がり過ぎた翌朝とか…なんて、
うじゃじゃけたことを言うよなお人だとは思いませんが。
真っ赤になった奥方に枕をぶつけられたり、
その気配を的確に読んだ次男坊に救出させたり、
これ以上綴るとそっちへ転びそうなので、
今日のところはこの辺でvv
〜Fine〜 11.09.05.
*途中で集中が切れたのか、
何か妙な〆めですいません。
こないだからこんなんばかりですね。(猛省)
やっと雨が落ち着いた途端に、窓の外からは虫の声がして。
蝉は雨の六月の後、なかなか鳴き声しなかったけど、
コオロギや鈴虫は地中にいた訳じゃないからか、
暦の上での秋が来れば、
暑かろうが雨だろうが鳴くんだねと思いましたの。
でもでも、島田さんチの恋女房は、
相変わらずにお声を出せない、
慎ましいお人なのでしたvv(おいおい)
めーるふぉーむvv 


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